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草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

世界に軍事的混乱をもたらしている大元はどこか?

兵頭二十八の防衛白書2015

兵頭二十八 著

◆圧巻の中東・アフリカ情勢分析

 昨年から年度版として刊行を開始し好評を博した兵頭版「防衛白書」ですが、2015年版の白眉はなんといっても冒頭の「中東・アフリカ編」における情勢分析でしょう。

 兵頭氏は初めにこの地域の概況を述べて、「中東とアフリカは現在、イランを中心に動いていると言っていい」と断じます。制裁解除後も水面下で核開発の努力をやめないであろうイランと、イランが「原爆」をもつことを最大の脅威とするイスラエル(およびサウジアラビアをはじめとするアラブ諸国)との対立こそが、現在の混乱の大元であるとの見立てです。そして万が一、どちらかが核兵器を使ってしまえば、「1945年いらい、戦後世界が一貫して高めてきた『核兵器使用の敷居』は急に下がってしまう。中共やロシアやパキスタンやインドも手軽に核兵器を使用できるような環境が生じかねない」、これは米国の国益に反するがゆえに、米国はイランの核武装も、イスラエルによる核攻撃も止めねばならないという使命感を抱いていると説きます。

 簡潔にまとめられたこの「概況」だけでも一読の価値あり。ここでまず視界が開けます。さらに、兵器や軍事作戦の解説はもとより兵士の心理(国民のやる気)にまで筆を及ぼして詳述された各国の現況を読み進んでいくと、ISその他の過激派組織による残酷なテロ、ISの拠点に対する有志連合の空爆、イランの核開発問題等々、これまで点として報じられてきた諸事件が線となってつながり、この地域で本当は何が起きているのかが浮かび上がってきます。過激派組織がいまや〝傭兵〟と化しつつあるという現実を知れば、汲めども尽きぬかに見えるその活動資金の出所がおのずと明らかになります。民主化運動と喧伝された〝アラブの春〟でさえ額面どおりには受け取れない、日本人の想像を絶する危ういパワーバランスのありさまを冷徹に描き出して、まさに圧巻です。

◆中国への対応、日本の武器輸出への提言

 分析はこのあと、「米軍編」「中共編」「朝鮮半島編」「日本編」「特別編」とつづき、たとえばアフガニスタンや中東での戦いの経験をふまえて進化している米軍の軍装品事情など、最新の情報を惜しみなく披歴して、一般には窺い知れないそれぞれの軍隊の実力のほど、その強さや弱点を評価していきます。「中共編」中の「日本の軍事評論家の義務」は、諧謔にまぶして核心に迫る兵頭氏の真骨頂を示す内容。「日本の軍事評論家の多くが『敵の戦力宣伝の片棒担ぎ屋』になっている」との指摘は、軍事予算の増大や繰り返される挑発行動に惑わされてしまい、中国軍の実力を過大に評価し、その脅威を声高に語る愚を犯してはならないと警鐘を鳴らすものです。日本の武器輸出について論じた「特別編」では、地雷を踏んでも大怪我をしないブーツ、外殻が砂糖菓子の素材でできた対戦車地雷、肥料でつくった対車両地雷を開発してはどうかとの提案がなされています。意表を突く着想ですが、戦争の本質をリアリスティックにとらえることで平和や安全や自由とは何かを考究しつづけてきた著者の提案だけに、説得力があります。

 軍事に関する一切を忌避し、戦争反対を言えば戦争は起きないというファンタジーに浸っていては、本物の危機を見定められないと教えてくれる一冊でもあります。

(担当/A)

著者略歴

兵頭二十八(ひょうどう・にそはち)

著述家、軍学者。1960年長野市生まれ。陸上自衛隊(第2戦車大隊)を経て、神奈川大学英語英文科、東京工業大学大学院江藤淳研究室に所属。社会工学専攻修士。著訳書に『兵頭二十八の農業安保論』『日本人が知らない軍事学の常識』『北京が太平洋の覇権を握れない理由』『「日本国憲法」廃棄論』『兵頭二十八の防衛白書2014』『アメリカ大統領戦記1775-1783』(いずれも草思社)、『人物で読み解く「日本陸海軍」失敗の本質』『新訳 孫子』『新訳・フロンティヌス戦術書』『新訳・戦争論』(いずれもPHP研究所)、『新解 函館戦争』(元就出版社)など多数。

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