草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

ただ触れ合い、寄りそうだけでいい。相手を癒すことで自分が癒される。 ――人は皮膚から癒される

人は皮膚から癒される

山口創 著

◆不調、ストレスの原因は「触れ合い」不足にあった!

 悲しみに沈んでいるとき、困難に打ちひしがれているとき、ただそばに寄りそってくれる人がいるだけで勇気づけられたことはありませんか? 実は皮膚は、直接触れ合わなくても親密な人が近くにいるだけで相手を感じ、癒しに向けた治癒力を発揮することがわかっています。今、認知症ケアで注目されているユマニチュードの手法においても、患者に「寄りそい、見つめ、話す」行為が直接「触れる」ことと同じように重要視され、病状改善に目覚ましい効果を上げているといいます。

 本書では、直接触れ合うことや、そばに寄りそうといった、親しい人との触れ合いや関わりが、いかに病気やストレスを軽減し、生きづらさや抑うつを防ぎ、幸福感を高め、元気を回復させるのかを明らかにするものです。

◆相手を癒すことで自分が癒される、幸福に生きるための究極のメソッド

 興味深いことに、相手を癒してあげようとするマッサージなどの触れる行為が、実は自分を癒すことにつながることが著者たちの実験で明らかになりました。触れることにより互いの脳内ではオキシトシンという深いリラックス感をもたらし、ストレスを癒す働きをするホルモンが分泌されるのですが、その分泌量を調べてみると、マッサージの受け手よりも施術する側のほうが多く分泌されていたのです。
 相手を癒すことで自分が癒される――、これは原因不明の不調やストレスに悩まされ続ける現代人にとって、癒しを取り戻す大きなヒントになるのではないか、と著者は指摘します。
 さらに、本書ではユマニチュードをはじめ、セラピューティック・ケア、タクティールケアなど医療や介護の現場で注目されている「触れるケア」の効能についても検証します。実際に自分一人でも始められる皮膚から元気になる方法も数多く提案していきます。
ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊となっております。

(担当/吉田)

本書の目次から
触れなくても肌は感じている/ストレスを癒す身体のメカニズム/自尊感情が低い人ほど有効なタッチ/パートナーの有無による心理の変化/皮膚が他者を判断していた/失われた皮膚の交流/なぜ日本人は対人関係に悩むのか/抱きしめ細胞の存在/生きづらさの原因は皮膚が閉ざされているから?/境界が拓かれることで人は癒される/「人の手」で触れる意味/人間関係を改善する皮膚コミュニケーション/皮膚を拓いて、元気な自分を取り戻す…etc

著者略歴

山口創(やまぐち・はじめ)

1967年、静岡県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は健康心理学・身体心理学。桜美林大学教授。臨床発達心理士。「手当て」としてスキンシップケアの効果やオキシトシンについて研究している。主な著書に『手の治癒力』(草思社)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)、『幸せになる脳はだっこで育つ。』(廣済堂出版)など多数。

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旧約聖書はキリスト教とユダヤ教とイスラム教の聖典なのだ  ――声に出して読みたい旧約聖書<文語訳>

声に出して読みたい旧約聖書<文語訳>

齋藤孝 著

 いま世界は一神教同士の戦いで紛糾している。
 旧約聖書は新約聖書と対になるキリスト教の聖典と受け取られているが、実はユダヤ教の聖典でもあり、イスラム教の聖典(啓典とも言う)の一つでもある。世界の大宗教の源流となっているだけでなく、十字軍以来何かと火種となっているキリスト教とイスラム教の対立が同じルーツから出ていることがわかる。どうも互いに相手を認めない一神教の苛烈さがテロなどの騒動の一因ともなっているらしい。
 日本というある種ぬるま湯的環境にいてはわからない対立の厳しさは旧約聖書を読むことで少しは理解できるようになるだろうか。
 確かにこの文書は人類の最も古い記録文書の一つであり、ひどい苦しみを生き延びてきた民族の歴史である。ユダヤ民族の苦難の歴史を書き留めたさまざまな文書から構成され、紀元前400年頃に成立したと言われるが、それ以前、天地創造から始まる2500年間ぐらいの歴史がつづられている。
 神によって理不尽とも言える試練を与えられながら、戒律によって神と契約を結び、聖地エルサレムへ帰還を果たすユダヤ民族。大洪水に遭ったり(ノアの箱舟)、大火災に遭ったり(ソドムとゴモラ)、奴隷として連行されたり(バビロン捕囚)、これでもかこれでもかというぐらい、まことに悲惨で不条理な神による試練の連続である。
 これを読んでいると、なぜか現代の不条理さも少しは納得できるような気になってくるから不思議である。残酷で意味のないことに耐えるということが人間の要諦なのだということらしい。本書は長くて読みにくい、旧約聖書を理解するために、著者が巧みにダイジェストした絵入り、図入りの便利な本としておすすめしたい。

(担当/木谷)

著者紹介

齋藤孝(さいとう・たかし)

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。『宮沢賢治という身体』(世織書房、宮沢賢治賞奨励賞)、『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)、2001年刊行『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)は続篇(第6巻まで刊行)、関連書をあわせて260万部を超えるベストセラーとなっている。「声に出して読みたい日本語」の古典教養シリーズに『論語』『親鸞』『志士の言葉』『古事記』『新約聖書〈文語訳〉』『禅の言葉』がある。近著に、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『語彙力こそが教養である』 (角川新書)など多数。

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嫌われ者のイメージは、こうして作られた?! ――外来種は本当に悪者か?

外来種は本当に悪者か? ―― 新しい野生 THE NEW WILD

フレッド・ピアス 著 藤井留美 訳

◆よそ者の生物たちがもたらす数々の効用

 外来種と聞くと、「周囲の生物を食べつくす危険な存在」というイメージが浮かぶことでしょう。しかし、著名な科学ジャーナリストの著者によれば、実際は、環境になじめず死滅するケースが多いのだとか。おまけに、晴れて環境に定着した生物でも、受粉や種子の伝播を手助けしたり、イタドリやホテイアオイなど、むしろ人間が破壊した生態系を再生したりする役割も果たすというから驚きます。
「外来種は悪い」という一般的なイメージは、どのように作られたのか? 著者は、そんな問題意識から、嫌われ者の外来種たちの“活躍" 例を、世界中から集め、その役割に光をあてます。

◆人種偏見に基づく民族浄化と外来種排斥は同じ構造

 本書の冒頭は、豊かな自然で知られる南大西洋のアセンション島の紹介で始まります。豊かな自然が残ることで知られる島ですが、驚くことに、それは太古からの姿ではなく、過去1世紀の間に、欧米人により世界じゅうからさまざまな動植物が持ち込まれてできた、まったく新しい自然だというのです。
 そうした象徴的な事例に続き、著者は、「在来種は善、外来種は悪」という価値観を根づかせてきた「侵入生物学」の各種論文のずさんさや、外来種の繁殖の原因はひとえに人間による環境破壊にあることなどを丁寧な取材から指摘。外来種排斥を人種偏見に基づく民族浄化になぞらえ、それが自然環境保護、自然の再生という目的の達成にはつながらないことを徹底的に解き明かしていきます。

◆日本の現状については解説で補足

 巻末には進化生態学者の岸由二氏による解説も付けました。R・ドーキンス『利己的な遺伝子』共訳者で、「流域思考」を基軸とした都市の自然再生活動に携わってきた同氏によるまとめは、日本の現状を知る上にも必読の内容と言えるでしょう。

「手つかずの自然」が失われている昨今、自然の摂理のもとで外来種が果たす役割を「新しい野生(ニュー・ワイルド)」として評価し、外来種のイメージを根底から覆す、知的興奮にみちたサイエンス・ノンフィクションの登場です。
(担当/三田)

本書の目次から

世界中から持ち込まれた動植物/外来種も病原菌も人類の旅のお供/ホテイアオイとナイルパーチが増えた真の理由/ほんとうの原因は人間による環境破壊/長い時間軸でとらえると在来種などいない/ペット出身の外来種たち/かわいらしい外来種は許される?/外来種排斥という陰謀の不都合な真実/民族浄化ならぬ生態系浄化の狂信ぶり/外来種悪玉論からの改宗と周回遅れの環境保護運動/ほとんどの荒れた生態系は回復している/驚くほど都会暮らしを楽しむ野生生物たち/野生生物の天国、チェルノブイリ/管理なき自然を求めて...etc.

著者紹介

フレッド・ピアス(Fred Pearce)

ジャーナリスト。環境問題や科学、開発をテーマにと 20年以上、85カ国を取材。1992年から『ニュー・サイエンティスト』誌の環境・開発コンサルタントを務めるほか、『ガーディアン』誌などで執筆、テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍する。2011年には長年の貢献に対しAssociation of British Science Writers から表彰を受けた。著書に『水の未来』(日経BP)『地球最後の世代』(NHK 出版)『地球は復讐する』『緑の戦士たち』(いずれも草思社)ほか多数。『地球は復讐する』は23カ国語に翻訳され世界中に大きな影響を与えた。

訳者紹介

藤井留美(ふじい・るみ)

上智大学外国語学部卒。訳書に『ビジュアル版 人類の歴史大年表』(柊風舎)『<わたし>はどこにあるのか』(紀伊國屋書店)『ビジュアルダ・ヴィンチ全記録』(日経ナショナル ジオグラフィック社)など。

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Amazon 外来種は本当に悪者か?フレッド・ピアス(著)

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暑い夏に涼しくなれる、「鰻」にまつわる江戸で一番怖い怪談を紹介します  『江戸前魚食大全』(冨岡一成著)より

 そろそろ、本格的な暑さが始まる季節。日本人にとって鰻が一番うまくなる季節の到来です。
 ところで、「土用丑の日」に鰻を食べる習慣が江戸時代にうまれたことをご存知ですか?
「土用」というのは、季節の変わり目の約18日間のことをいって、年に4回ございます。そのうち立秋前の土用丑の日(今年は7月30日)に鰻を食べる習慣が江戸時代から始まったのです。
 夏場は売れ口が悪いと鰻屋から相談を受けた平賀源内が、「本日土用丑の日」と紙に書いて店先に貼ったところ、これが宣伝文句となり鰻屋は大繁盛し、他の店もこれを真似るようになって、土用丑の日に鰻を食べる習慣がうまれたという逸話はあまりに有名でございます。
 いや、そうではなくて、神田の老舗鰻屋の深川屋から依頼された大田南畝が「土用丑の日に鰻を食うのは身体に良いぞ」と広めたのだという人もおりますし、それとは別に神田の春木屋を元祖とする説もございます。蒲焼の保存法を尋ねられた春木屋善兵衛が、土用子の日・丑の日・寅の日に焼いた鰻を土蔵に密閉して試したところ、丑の日のものだけが色も香りも変わりません。暑気にあたらぬものとして、これを売り出したら大いに当たったと申します。
 いずれも俗信めいたお話ですが、実際に暑い盛りに鰻を食べる習慣がうまれたのですから、「土用丑の日」は、いまでいうキャッチコピーのはしりだったのかもしれません。 
 今も昔も日本人に愛され続けている鰻ですが、実は江戸時代の人々は、鰻のことを恐れていたようなのです。どういうことなのでしょうか? では早速、江戸で一番怖い怪談と言われた鰻のお話を、『江戸前魚食大全――日本人がとてつもなくうまい魚料理にたどりつくまで』から、ご紹介いたしましょう。

江戸後期の本草学者佐藤中陵の随筆集『中陵漫録』(一八二六)に「鰻鱺(うなぎ)の奇話」というのがある。

江戸の麻布で古くから鰻屋を営む男が、ある日、気がふれた。まな板の上に横たわり、包丁を自分の
喉に突き立て、「我はウナギなり」と絶叫し続けて、ついに死んだ。周囲の者は「長年のあいだウナギを割いてきた報いだろう」とささやいた。
ウナギに呪われた職人は、決まって頭がおかしくなり、ウナギのしぐさを真似しながら死んでいく。
そうした因縁話はいくらもあって、噂までも含めれば鰻屋の数ほど伝わったのではないかとすら思う。
ウナギを割くたびに祟られていたら、この世から鰻屋が絶えてしまうが、江戸っ子はこういう話が好きなのである。
なかでも滝沢馬琴が編纂した随筆集『兎園小説余録』に出てくるウナギの因縁話は有名だ。

……叔父の某は左官の棟梁だが、左官になる以前ある鰻屋の養子になっていた。
某は鰻職人の養父にともない、ウナギの買い出しに千住へ行き、日本橋の河岸へも行った。ある日、
養父と買い出しに出かけ、ウナギを仕入れてきたなかに、驚くほどの大ウナギが二匹まじっている。
「こんな大きな奴は、今朝買ったときにはいなかったはずだが。どういうわけだろう」
「確かにこんな奴はいませんでしたね。しかしこれは珍品ですね。お得意様に鰻の荒いのがお好きな方がいらっしゃいます。囲っておいて、あの方にお出しすればよろこばれましょう」
某がそういうと養父も了解した。
翌日、そのお得意が友人をともなって店に現れた。養父がたいそうな大ウナギが手に入ったというと、
「それなら、すぐに焼いてもらおう」と注文して、上機嫌で二階に上がった。
そこで、養父が大ウナギの一匹を生簀からつかみ出して割こうとすると、どうしたことかウナギ錐(きり)で自分の左手を突き通してしまった。痛みがひどいので、やむをえず某を呼び、代わりに割いてくれるよう頼んで血のしたたる手をかかえて引き下がった。
代わって割こうとした某だが、ウナギは手にきりきりとからみついて、尋常でない力で締めつける。
ひどく痺(しび)れて痛むので手を引くと、ウナギは尾を反らして某の脾(ひ) 腹(ばら)を強く打った。息が詰まるほどの強さである。どうにも難儀してしまった某はしっかりとウナギをつかむとそれに向かい小声でいい聞かせた。
「よく聞け。どんなに暴れても、お前の命は助からないのだ。頼むから素直に割かせてくれ。その代わりおれはこの家を立ち去って、きっとこの商売はやめる」
それが通じたのか、ウナギはからみついた体をほどくと、某の手で静かに割かれた。ところが、苦心
して割いたウナギを焼いて出すと、お得意もその連れも気持ちの悪いにおいがする、といって箸をつけようとしなかった。
さて、その日の夜中のことである。生簀から騒がしい音が聞こえてくるので、家の者は驚き気味悪が
った。某が手燭をとって蓋を開いてみると、夥しいウナギが頭をもたげてこちらを睨んでいる。そして、もう一匹残っていた大ウナギはどこかへいなくなっていた。某は恐ろしくなってしまい、夜明けを待って養家を出奔した。
それから某は上総の実父の元で一年ばかり過ごしたが、ある日養家から「養父は昨年より病を患い、
まるで頼みにならないから、急いで帰ってきてほしい」という手紙が届く。養家と離縁したわけでもないので、某は養父の看病をかねて戻ることにした。ところが帰ってみると、養母は情夫を家に引き入れ、商売に身を入れず、寝たきりの養父を納戸に押し込めて看病する者もつけないありさまだ。某はそれをたしなめ、病人を座敷に運んで自らが看病するが、養父は薬も食事もまったく受けつけない。ただ水だけは飲む。ものをいうこともできず、ウナギのように顎をふくらませて息をつく。なんとも情けない姿のまま、ほどなく息を引き取った。
某は後始末をねんごろにして養家と離縁した。それから左官の技術を習って、それで渡世をするよう
になった……。

 さて、「江戸で一番恐い怪談」いかがでしたか? 現代のより刺激の強いホラーに慣れた向きには、その恐ろしさはあまり伝わらないかもしれませんが、この話から、江戸人の心に去来する殺生に対する恐れが見てとれるのではないかでしょうか。現代とはちょっと違う江戸人と魚の付き合い方。大変興味深いものです。江戸と魚にまつわる話をもっと知りたい、読みたいと思った方は、ぜひ『江戸前魚食大全』を手に取ってご覧ください。

(筆者/冨岡一成)

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江戸前魚食大全 | 書籍案内 | 草思社

江戸前魚食大全: 日本人がとてつもなくうまい魚料理にたどりつくまで | 冨岡 一成 | 本-通販 | Amazon.co.jp

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「石油」争奪の時代から「水」争奪の時代へ!?  地球規模の難題を克服する道を示す一冊。 『水危機を乗り越える!』

水危機を乗り越える!

――砂漠の国イスラエルの驚異のソリューション

セス・М・シーゲル 著 秋山勝 訳

◆日本は「水」の輸入大国だった!

 「水ストレス」という言葉があります。人びとが利用できる水の量が減り、日常生活に不便を感じる状態を表す言葉。世界的な水不足が進行するなか、きわめて高い水ストレスに直面している国は37か国もあるといいます。
 じつは日本も「水ストレス・高レベル」の国なのです。「水と安全はタダ」「湯水のように遣う」などといわれる、人口の100%が安全な水を利用できる日本が? 

 意外かもしれませんが、問題は食糧です。食糧自給率が40%を切る(カロリーベース)という日本が輸入する大量の食糧(農畜産物)の生産には、大量の水が必要です。バーチャルウォーター(仮想水)と呼ばれるこの水を換算すると、日本は世界有数の水輸入国だというのが現実です。世界の水危機はけっして対岸の火事ではないのです。

◆人口増大が水危機を加速させている

 2025年には世界人口のじつに3分の2が水不足に直面するという予測もあります。現在、加速している水危機は、温暖化などによる気候変動、そして何よりも人口の増加が引き起こしているといわれます。

 世界の人口は毎年8000万人ずつ増加しており、これにともなって水の需要が毎年640億㎥ずつ増加するという試算があります。人口が増え、生活水準が高まっていけば、食糧生産や工業生産が増大し、それは水を含めた資源への負荷がさらに増大することを意味します。
 ジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』(草思社刊)で指摘されているとおりのことが、いままさに地球規模で加速的に進行しつつあるのです。

◆21世紀は水をめぐる戦争の時代

 水資源の枯渇は、当然のようにその争奪戦を生み出します。20世紀は「石油」をめぐる戦争の時代だったが、21世紀は「水」をめぐる戦争の時代になる――と、世界銀行元副総裁のイスマイル・セラゲルディン氏は1995年の時点で述べています。

 国境を越えて流れる大河川の水資源分配をめぐり、世界各地で紛争の火種がくすぶっています。たとえばナイル川流域のタンザニア、エチオピア、エジプト。ヨルダン川をめぐるイスラエル、ヨルダン、パレスチナ。チグリス・ユーフラテス川とトルコ、シリア。インダス川とインド、パキスタン。メコン川をめぐっての中国と東南アジア諸国――。

◆砂漠の国は、どうやって水危機を乗り越えたか?

 この水危機を乗り越えるにはどうすればいいのか?

 日本もまた問題解決のための高度な技術をもっていますが、注目すべきなのが、国土の60%が砂漠というイスラエルです。イスラエルはさまざまなイノベーションを積み重ねて水問題を克服、いまでは豊かな水の国を実現しています。

 本書は、イスラエルで建国以来、連綿と続けられてきた「水」に対する多様な手法やシステム、技術革新を詳細に紹介、さらにグローバルビジネスをも構築してきたその軌跡を分析したものです。

 節水、再生水、海水淡水化。あらゆる方法で、あらゆるところから水を絞り出していくのがイスラエルの手法。
 たとえばシムハ・ブラスという人が開発した「点滴灌漑」によって農耕地灌漑に使用される水の量が大幅に抑制されました。さらに、少ない水量で生育する品種を改良、また塩分を含む地下水でも育つ作物を生み出すなど、「限られた水」を最大限に利用しつくすさまざまな技術が産み出されています。

◆水を生み出すシステムが、グローバルビジネスをも生み出す

 また廃水のリサイクルシステム。棄てられていた水から再生水を生み出すのみならず、その行程でさまざまな汚染物質(医薬品などの残留物もふくむ)を取り除き、水資源の汚染をも軽減させています。さらに無尽蔵にある「海水」の淡水化システム。巨大な淡水化プラントは、大量の水を生産すると同時に、その技術を輸出することで巨大な水ビジネスの市場をも生み出しているのです。

 21世紀世界の難問である「水危機」をいかに乗り越えるか。その解のひとつを、この砂漠の国が示しています。日本ではまだあまり知られていない、イスラエルの水問題への取り組み、その斬新なイノベーションの数々は多くの示唆に富んでいます。

 全米ベストセラー、M・ブルームバーグ氏やT・ブレア氏などが強く推奨する、まさにいま必読の一冊です。

(担当/藤田)

著者紹介

セス・М・シーゲル
1953年、ニューヨーク市生まれ。コーネル大学卒業後、ヘブライ大学で国際関係学を専攻。その後、コーネル大学法学院で法務博士号を取得。弁護士、起業家、アクティビスト。水資源、国家安全保障、中東問題をテーマにニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルをはじめ、ヨーロッパ、アジアのメディアに数多く寄稿するほか、フォーリン・アフェアーズ誌を刊行する外交問題評議会の会員である。

訳者紹介

秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、バーバラ・キング『死を悼む動物たち』、ジョン・ゲヘーガン『伊四〇〇型潜水艦 最後の航跡』、ティム・ジューダ『アベベ・ビキラ』、ジョージ・サイモン『他人を支配したがる人たち』(以上、草思社)、マーティン・フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』、ゲイル・カーリッツ『アメリカの中学生はみな学んでいる「おカネと投資」の教科書』(以上、朝日新聞出版)など。

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渋谷のHMV&BOOKS TOKYOにて『データの見えざる手』関連書籍フェア開催!

 HMV&BOOKS TOKYOさん(渋谷)にて、『データの見えざる手』編集者オススメ世界を見る目が変わる10冊と銘打ったフェアを開催していただいています。

 草思社の本5冊と、他社さんの本5冊を「データを使って世界を見る」という視点からチョイスして紹介するものです。

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 いずれも、担当編集者が読んで感銘を受けた本ばかり。HMV&BOOKSさん店頭で本につけている紹介文とともに、本ブログでもオススメしてみたいと思います!

 

(1)『データの見えざる手-ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(矢野和男著・草思社)

本当にすごい本。人間にセンサを付けて行動のデータを取り、分析する。すると、驚くようなことがわかる。データにより「人間は人間的に働かせた方が成果が出る」と証明されることとか。「知人の知人」が多い人ほど、生産性が高いとか。とにかく読んでほしい! 

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 (2)『数に強くなる』(畑村洋太郎著・岩波新書)

定量データがなければ、考えることさえできない。だから、いつでも数え、測り、見積もり、推測することが重要だ。貪欲にしぶとく、動員できるモノはすべて使ってやる。そのための方法や精神が書かれた、珠玉の一冊。読んだ後には、世界がまったく違って見えてくる。そして、その楽しいこと!  

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(3)『カルチャロミクス-文化をビッグデータで計測する』(エレツ・エイデン&ジャン・バティースト・ミシェル著/阪本芳久訳/高安美佐子解説・草思社)

巷で言われる「文系不要論」がまったく的外れとわかる本。これからのデータ科学の主戦場は、むしろ歴史や文学、社会学などの「文系研究」なのだ。本書の著者たちはなんと、Googleを使って、誰でも言語の歴史を研究できるようにしてしまった! 文系の未来が明るく見えてくる一冊!

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(4)『はじめての福島学』(開沼博著・イースト・プレス)

データは大事だ、と考えさせられる本。本書の最初に出てくる25項目と「はじめに」だけでも読んでほしい。著者は、データなしで福島を語るときに起こる残念な感じの正体を見事に分類整理し、読者に突きつける。そして本文では、次々とデータを駆使して福島を語る。目を見開かされる一冊。

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(5)『ソーシャル物理学―「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(アレックス・ペントランド著/小林啓倫訳/矢野和男解説・草思社)

『データの見えざる手』矢野和男氏の共同研究者でもある著者が行った、数々の社会実験の成果をまとめた本。これまた本当に驚く発見満載。行動パターンからその人の可処分所得を推測できるとか、生産性が高まる会議の司会の仕方とか。バブルやパニックを防ぐよう集団を制御する方法とか…。必読!

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 (6)『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』(渡辺佑基著・河出書房新社)

行動データを取られているのは人間だけじゃない。動物にセンサを付け行動を計測する「データロガー」が動物の生態研究に革命を起こしつつある。本書は、特に物理好きの生態学者が書いた本だけに、飛ぶ・泳ぐ・潜るなど、動物の運動に関する面白い発見の話がいっぱい。研究の苦労話も楽しい。

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(7)『コネクトーム―脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか』(セバスチャン・スン著/青木薫訳・草思社)

現在の脳科学は、最重要のデータなしで進められている。そのデータとは、コネクトーム=全脳細胞の結合の仕方の地図のこと。しかし、コネクトームがデータだとして、それを使って脳をシミュレーションしたら、「私」を再現できるのか? その先に不死もあるのか? そこまで論じるすごい本。

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 (8)『ソーシャルメディアの経済物理学―ウェブから読み解く人間行動』(高安美佐子著・日本評論社)

ネットの書き込み分析の力は侮りがたい。たとえば、震災後に「津波」という言葉は使用頻度が上がったが、本書の分析によれば、24年で以前の水準に戻るという。私たちは24年で「津波」を忘れるのかも知れない。やや専門的だが、書き込み分析がどのように行われるのかがよくわかる。

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(9)『異端の統計学 ベイズ』(シャロン・バーチュ・マグレイン著/冨永星訳・草思社)

ベイズ統計は、いまやデータ分析や人工知能研究などで欠かすことができない存在だが、かつて統計学では異端とされてきれた。忌み嫌われた理由や、戦争や保険、事故調査、企業経営などでの意外な大活躍の物語が綴られる。統計学界の濃いキャラの学者がたくさん登場する楽しい本。

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(10)『Amazonランキングの謎を解く―確率的な順位付けが教える売上の構造』(服部哲弥著・化学同人)

アマゾンはロングテールで商売しているって本当? そもそもランキングはどういう仕組みでつけてるの? 情報を公開しないアマゾンに、実験と観測と数理で挑み、ランキングの手法を推測、アマゾンはロングテールではなく、上位品目で利益を上げていると看破する。専門的だが、めっぽう面白い。

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HMV&BOOKS TOKYOさんにもぜひ、行ってみてください!

 

 (担当/久保田)

 

なぜヒトラーのような男が出てきたのか。 『野戦病院でヒトラーに何があったのか』

野戦病院でヒトラーに何があったのか

――闇の二十八日間、催眠治療とその結果

ベルンハルト・ホルストマン 著 瀬野文教 訳

 『帰ってきたヒトラー』という映画が今週公開される。二年前のドイツのベストセラーの映画化である。ヒトラーが現代に現れて、モノマネ芸人として人気者になるという設定らしい。ドイツでは『わが闘争』が禁書から解除されて出版されたらしいし、移民問題に絡んでネオナチ的な活動も盛んになってきた。アメリカ大統領選のトランプ候補の人気ぶりを、ヒトラーになぞらえる人も多い。
 いまだにヒトラーは謎であり、人びとの興味を惹きつけてやまない。本書は2004年にドイツで刊行された本であるが、一部で評価されたものの、本流の研究からは異端視されている。著者は娯楽作品を書いてきた作家で、弁護士である。本書を書き上げた4年後の2008年に89歳でなくなっている。本書の説が異端視されるのも、無理はないと言えるかもしれない。ヒトラーがあんなに異常な人格になったのは催眠治療の結果だというのだから。
 ヒトラーは第一次大戦末期の1918年秋ベルギー戦線で毒ガス攻撃を受けて失明し、ドイツ東部に移送され、パーゼヴァルク野戦病院というところで治療を受ける。この一ヶ月の治療のあいだに「天啓を受けて」「政治家になろうと決意した」と『わが闘争』に書いてあり、彼の転機であった事は、間違いないようだ。
 しかし、ドイツ軍に入るまで定職につかず、ウィーンの街で浮浪者まがいのボヘミアン的生活を送っていたヒトラーが、また軍隊でも「目立たない卑屈なやつ」であったヒトラーが、復員したミュンヘンで急に「目に怒りをたぎらせた大衆煽動家」に突然変身したのはなぜかというのは、おおいなる謎である。
 本書ではパーゼヴァルク野戦病院で治療に当たった精神医学の権威エドムント・フォルスター教授が強引で屈辱的な催眠治療をヒトラーに施し、しかもドイツ革命で混乱する病院に、そのまま放置し帰ってしまった結果、異常な人格が花開き、固定化してしまったというのだ。
 フォルスター教授はヒトラーの診断記録を手記にまとめ、手元に置いておいたが、ヒトラーに嗅ぎつけられ、追い詰められる。パリに持って逃げ、そこで亡命ユダヤ人作家グループにこれを託し、ドイツに戻ってから自殺する。作家たちの一人エルンスト・ヴァイスはフォルスターの手記をもとに『目撃者』という小説(邦訳草思社)を書くが、その後やはりドイツ軍のパリ入城の日に自殺する。ヒトラーはパーゼヴァルクで起こったことを隠そうとしていたらしい。自分がサイコパスであるという診断を下され、根掘り葉掘り質問され、過去の嫌な思い出も全部知られてしまったからだろうか。
 本書はサイコパスと診断された異常な妄想癖の男に、全ドイツが引きづり回されたということを証明しようとしているかのようだが、これはドイツ国民にとっては受け入れがたいことかもしれない。本書の異端視化もこのことに起因しているのだろう。
 混乱の時代に異常な人格の人間が台頭して社会をかき乱す、これは現代にも通用するいましめかもしれない。

(担当/木谷)

著者紹介

ベルンハルト・ホルストマン
1919-2008年。ミュンヘンに中産階級の子弟として生まれる。第二次大戦では国防軍の将校として従軍、大戦末期に反ヒトラー運動に連座して逮捕、釈放ののち最後のベルリン攻防戦に参加、ソ軍に抑留後1946年9月に解放。戦後は法律家、ミステリー作家として活躍。80歳をすぎてから本書の執筆にとりかかった。

訳者紹介

瀬野文教(せの・ふみのり)
1955年東京生まれ。北海道大学独文科修士課程卒。著書に『リヒャルト・ハイゼ物語』(中央公論新社)、訳書に『黄禍論とは何か』『ドイツ現代史の正しい見方』『新訳ヒトラーとは何か』『目撃者』(以上草思社)、『ロスチャイルド家と最高のワイン』(日本経済新聞出版)などがある。

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