草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

「安心・便利な旅」をめぐる語られざる創意工夫の物語『パッケージツアーの文化誌』吉田春生 著

パッケージツアーの文化誌

吉田春生 著

 日本人の「旅」のかなりの部分を担ってきたにもかかわらず、その内実についてはあまり知られていない「パッケージツアー」。この本はその来歴に光を当てる出色の文化誌です。著者は海外旅行の黎明期・拡大期に旅行会社の社員としてさまざまな経験を積み、その後、観光学の研究者に転じて、旅の現場を熟知した立場から日本の観光の在り方を考察してきました。本書では、老若男女問わず気軽に旅を楽しむことができるパッケージツアーの仕組みがどのようにして生まれ、成長してきたかを丁寧に記述しています。
 一言でパッケージツアーといっても、その実態はさまざまです。参加者の多様化しつづけるニーズに旅行会社はどのように応えてきたのか。そして、その結果どのようなパッケージツアーが生まれたのか。本書では著者が所有する過去のツアーパンフレットなどもひもときながらパッケージツアーの進化の歴史を振り返り、その未来像を考察しています。詳しくはぜひ本書をお読みいただきたいのですが、各旅行会社のツアーのコース内容や料金だけではなく、その時代背景についても解説されていて、旅に関心のある方であればまちがいなく興味を惹かれる内容になっています。
 新型コロナウィルスの感染拡大は日本のさまざまな業界に大きなダメージを与えました。なかでも壊滅的な痛手を被ったのが観光業界、旅行会社です。この一年あまりで発生した深刻な事態から回復するのには時間がかかりそうですが、これまで幾多の苦境を乗り越えてきた旅行業界は、今回の危機も新たな創意工夫によって克服できるのではないかと著者は期待しています。そして、「その思いはパッケージツアーを中心とした旅行会社の取り組みの歴史を振り返ることで明確になる」(本書「はじめに」より)のです。コロナ禍によって移動の機会を奪われたことで、私たちは改めて旅することの意味を考えることになりました。日本人の旅を独自の視点で振り返る本書は、思いのほか多彩な「旅の楽しみ」に気づかせてくれる一冊でもあります。

目次
はじめに
序章   パッケージツアー以前――一九六〇年代の海外旅行
第一章  パッケージツアーとは何か  
第二章  パッケージツアーは何を提供しているか
第三章  ビジネスとしてのパッケージツアー
第四章  こんなパッケージツアーがあった
第五章  パッケージツアーの未来
終章   「コロナ以後」はどうなるのか

(担当/碇)

著者紹介

吉田春生(よしだ・はるお)

1947年、名古屋生まれ。1970年、大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)卒業。日本交通公社(現JTB)に約20年間勤務したのち、専門学校の非常勤講師を経て鹿児島国際大学で教鞭をとり、経済学部教授を最後に定年退職。旅の現場を熟知した立場から日本人の旅行・観光の在り方に光を当てる著作多数。主なものに『観光と地域社会』(ミネルヴァ書房、第1回日本観光研究学会「学会賞観光著作賞」受賞)、『新しい観光の時代 : 観光政策・温泉・ニューツーリズム幻想』(原書房)、『ツアー事故はなぜ起こるのか : マス・ツーリズムの本質』 (平凡社新書)、『観光マーケティングの現場 : ブランド創出の理論と実践』(大学教育出版)などがある。

f:id:soshishablog:20210601105222j:plain f:id:soshishablog:20210601105236j:plain

Amazon:パッケージツアーの文化誌:吉田春生 著:本

楽天ブックス: パッケージツアーの文化誌 - 吉田 春生 - 9784794225238 : 本

戦争の心の傷はいかに癒やせるか?退役軍人の心の旅の記録。『帰還兵の戦争が終わるとき』トム・ヴォス著 レベッカ・アン・グエン著 木村千里訳

帰還兵の戦争が終わるとき

――歩き続けたアメリカ大陸2700マイル

トム・ヴォス 著 レベッカ・アン・グエン 著 木村千里 訳

◆戦争が終わっても、兵士の心の平穏は戻らない

先日、バイデン大統領がアフガニスタンから完全撤退することが報道され話題になりましたが、米国同時多発テロを発端とした戦争が、アメリカ兵たち自身に与えた傷の深さはどれほどのものだったのでしょうか。戦争そのものによる米兵の死者は6800人以上とされていますが、退役軍人による自殺はアメリカ合衆国退役軍人省の試算では1日に20人にものぼり、退役後も兵士たちの「心の中の戦争」が終わっていないことが分かります。本書は、イラク戦争に従軍したアメリカ兵士が、戦争で抱えた深い精神の傷にどのように向き合い、傷を癒やしていったかを克明に描き切ります。

◆トラウマに向き合うための2700マイル

トムは、従軍中のミッションで、部隊の判断ミスにより上官を失った経験から退役後も自責の念に苛まれます。追い詰められた彼が、このままではいけないと思い考えついたのが、アメリカ大陸を徒歩で縦断するという途方も無い試みでした。この膨大な距離と時間だけが、自分のトラウマに向き合うことができる唯一の行為だと考えたのです。旅の中で、同じように苦しんでいる退役軍人たちが懸命に生きている姿を見たり、心を鎮める方法にヒントを与えてくれるネイティブアメリカンと出会ったりするなかで、自分が軍人であることでいかに「他人に頼ってはいけない」という考え方にとらわれていたかや、上司の死が自分を責めるべき出来事ではなかったことなどに次第に気づきます。旅の終わりに、物語はひとまずの決着を迎えますが、トムの癒しの本当の旅はこれから先にあります。戦争で受けた凄惨な心の傷が癒えることはありえるのか、深く傷ついた人間の精神がどのようにして回復しうるのか。この深遠な問いに対する一つの解答が、本書にはあります。

(担当/吉田)

著者紹介

トム・ヴォス

2003~2006 年の3年間、アメリカ陸軍で現役勤務。陸軍初のストライカー歩兵旅団の1つ、第25 歩兵師団第1旅団を構成する第21 歩兵連隊第3大隊に所属。前哨狙撃兵小隊の偵察歩兵を務める。

レベッカ・アン・グエン

トムの姉。ノースカロライナ州シャーロットを拠点として活動する作家。

訳者紹介

木村千里(きむら・ちさと)

上智大学文学部英文学科卒業。システムインテグレーターにてシステム開発および英文抄訳に従事したのちフリーランス翻訳者となる。訳書に『ウォートン・スクールの本当の成功の授業』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ウェルビーイングの設計論』(共訳/ビー・エヌ・エヌ新社)、『1440 分の使い方』(パンローリング)、『HYPNOTIC WRITING』(共訳/IMKブックス)がある。

f:id:soshishablog:20210526113118j:plain f:id:soshishablog:20210526113128j:plain

 Amazon:帰還兵の戦争が終わるとき:トム・ヴォス 著 レベッカ・アン・グエン 著 木村千里 訳:本

楽天ブックス: 帰還兵の戦争が終わるとき - 歩き続けたアメリカ大陸2700マイル - トム・ヴォス - 9784794225177 : 本

日本企業が変化に対応できない本当の理由『予測不能の時代』矢野和男 著

予測不能の時代
データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ

矢野和男 著〔(株)日立製作所フェロー/(株)ハピネスプラネットCEO〕

◆『データの見えざる手』から7年。待望の新著、遂に刊行!

 2014年に著書『データの見えざる手―ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社)でビジネス界に衝撃を与えた研究者による新著が、遂に刊行されることとなりました。『データの見えざる手』は、人々の幸福度がウエアラブルデバイスで計測可能であることや、人間行動の測定と人工知能を組み合わせることで大幅な生産性向上が見込めることを明らかにし、大きな注目を集めました。刊行から今日に至るまで、著者の研究はテレビ・新聞・雑誌やWEB媒体など、数多くのメディアに取り上げられ続けています。
 前著から7年を経て、この間に蓄積した新たな知見や、多くの日本企業の協力を得て行われた大規模な実証実験の成果が、新著にまとめられています。テーマはタイトルにあるとおり「予測不能」。新型コロナの流行など、社会は以前にも増して予測不能に変化するようになっています。現代の企業は「予測不能な変化に、いかにすばやく対応するか」という新しい競争にさらされていると言えるでしょう。著者は、組織が「予測不能な変化」に対応するためには、マネジャーは従業員が幸せであるよう環境を保たなければならない、と言います。いったい、どういうことなのでしょうか?

◆幸せな人が多い企業は、一株当たり利益が高く、生産性も創造性も高い

 予測不能な変化が頻発すると、従業員は新たな環境に対応するため、実験と学習をし、関係者と折衝もして、仕事のやり方を変えるという、非常に面倒なことに挑み続ける必要があります。このような「面倒なこと」こそが、今や最も生産性の高い仕事だからです。これを続けるために、従業員は幸せでなければならない、というのです。実際、ここ20年間のポジティブ心理学や組織行動の研究により、幸せな人は「面倒だが重要な仕事」に積極的であり、幸せな人が多い企業は生産性や創造性が高く、一株当たり利益も高いことが示されています。逆に、幸福感が低いときに、面倒な仕事を後回しにしがちになるというのは、誰しも経験があるでしょう。
 では、従業員を、組織全体を、幸せに保つためにはどうすればいいか? 著者はそのための科学とテクノロジーを研究してきました。今や、著者らが開発した技術により、スマホアプリで組織の幸福度を測定することが可能となっています。また、数多くの日本の企業が参加した実証実験により、組織を幸せな状態に導く介入法の研究が行われており、実際に生産性が向上することが示されているのです。
 この20年間、生産性向上で他国の後塵を拝してきた日本。その日本が再び飛躍する鍵は「幸せ」にある――。日本を再生させる力を秘めた最新研究の成果が詰まった、ビジネスパーソン必読の一冊です。

(担当/久保田)

著者略歴

矢野和男(やの・かずお)
株式会社日立製作所フェロー。株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO。
1959年山形県酒田市生まれ。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。91年から92年まで、アリゾナ州立大にてナノデバイスに関する共同研究に従事。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。
2004年から先行してウエアラブル技術とビッグデータ解析を研究。論文被引用件数は4500件、特許出願350件を超える。「ハーバードビジネスレビュー」誌に、開発したウエアラブルセンサが「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介される。開発した多目的AI「H」は、物流、金融、流通、鉄道などの幅広い分野に適用され、産業分野へのAI活用を牽引した。のべ1000万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。2014年に上梓した著書『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社)が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。
無意識の身体運動から幸福感を定量化する技術を開発し、この事業化のために2020年に株式会社ハピネスプラネットを設立、代表取締役CEOに就任。
博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。日立返仁会副会長。東京工業大学大学院特定教授。
1994 IEEE Paul Rappaport Award、1996 IEEE Lewis Winner Award、1998 IEEEJack Raper Award、2007 Mind, Brain, and Education Erice Prize、2012年Social Informatics国際学会最優秀論文など国際的な賞を受賞し、「人間中心のIoT技術の開発と実用化に関するリーダーシップ」に対し、世界最大の学会IEEEより2020 IEEE Frederik Phillips Awardを受賞。

◆目次◆

まえがき

第1章

 予測不能な変化に立ち向かう
 変化への適応を阻む組織の構造
 「ルール」という罠
 「計画」という罠
 「標準化と横展開」という罠
 「内部統制」という罠
 生産性向上はなぜ重要なのか
 生産性向上はなぜ行き詰まったか
 多様性と変化に対応するための4原則
 第1の原則:実験と学習
 第2の原則:上位目的へのこだわり
 第3の原則:自己完結的な機動力
 第4の原則:「前向きな人」づくりへの投資
 変化に強い組織と弱い組織の違い
 4つの原則は個人にもあてはまる

第2章

 新たな幸せの姿
 変化への対応と幸せと大量のデータ
 ポジティブ心理学の誕生と発展
 「幸せな人は生産性が高い」という発見
 技術が心理研究・人間行動研究を変える
 人間行動を計測するウエアラブル端末
 スマートフォンは人間理解を前進させる
 人間行動センシングで何をしてきたか
 幸せとは何か
 手段としての幸せは人それぞれで多様
 生化学現象としての幸せは人類共通
 幸せの調査と行動計測を同時に行った
 コミュニケーションの多寡は幸せとは関係ない
 幸せな組織の普遍的な4つの特徴「FINE」
 つながりに格差や孤立がない(フラット)
 短い会話の頻度が高い(インプロバイズド)
 会話中の身体運動(ノンバーバル)
 発言権の平等性(イコール)
 幸せで生産性の高い組織をつくる4条件
 幸せで生産的な組織のマネジメント
 心理的安全性の確保がマネジメントの基本

第3章

 幸せは天下のまわりもの
 無意識の身体の運動から「幸せ」がわかる
 身体運動データの中にある「幸せの配列」
 身体運動の計測だけで幸せが測れる
 「よい幸せ」と「悪い幸せ」が区別可能に
 幸せは天下のまわりもの
 幸せは経済現象か物理現象か
 いかに生きるべきか

第4章

 幸せとはスキルである
 幸せの3つの時間軸
 幸せを高める能力「心の資本=HERO」
 HEROを育むにはどうすればいいか
 心の資本と私
 ホープ/エフィカシーはこうして高めた
 既に持っているもので始める
 「実験と学習」で道を見つけていく
 資源と権限は、実績によって獲得する
 成功に必要なことは何でもやる
 自分の役割は自分で決める
 レジリエンス/オプティミズムはこうして高めた
 仕事の上位目的にこだわり、手段にこだわらない
 大義の威力
 困難を最高の学びの機会にする
 新たな人との出会いを活用する
 最終的に仕事のやり方はどう変わったか
 幸せは、新事業創生を可能にする
 エフェクチュエーションとコーゼーション
 各言語に表れる幸せの多様性
 日本のしあわせは「人との交わり」

第5章

 変化に向き合うマネジメント
 今や人こそが企業の価値の源泉
 人的資本のものさしをつくる
 組織のレントゲン写真「人的資本マップ」
 「ウエルビーイングケア」が可能になる
 組織の病としての「孤立」
 孤立へのテクノロジーを使った処方箋
 組織へのデジタルなクスリ:X施策とY施策
 幸せを求める心につけ込むコロナウイルス
 幸せなリモートワークのための4箇条
 雑談支援のためのデジタルなクスリ

第6章

 変化にデータで向き合う
 データやAIに関する議論はリセットが必要
 データは過去をまねるためのものか?
 あまり認識されていない「統計学の限界」
 予測不能に対応するためのデータ活用
 過去の延長からの乖離を検知し対処する
 注目すべきは変化をもたらす「力」の存在
 データとAIは行動を支援するもの
 データによるガバナンスの3つのレベル
 「ルール廃棄ができない組織」からの脱却

第7章

 格差の本質
 格差は社会の発展に制約を与える
 格差の原因は何か
 ハイエクとフリードマンの自由主義経済
 完全に平等な取引からも格差は生まれる
 格差は「エントロピー増大」の帰結である
 不平等を拡大させるルールの存在
 勝者優遇のルールが格差を拡大させる
 因果応報で格差拡大する例:書籍売上
 平等は自然には現れず、意識的にしかつくれない
 格差回避の本丸、教育
 学歴と賢さは必ずしも関係ない
 格差とは量子効果である

第8章

 予測不能な人生を生きる
 幸せとは「状態」ではなく「行為」である
 予測不能と向き合う最古の方法『易』
 「未知の変化への対応力」は退化してきた
 『易』の変化の理論とはどのようなものか
 二項対立を俯瞰・統合し突破する能力
 変化に立ち向かう力を高める方法
 視点の柔軟性が人生を変える
 「オプティミズム」訓練のための16個の視点
 16個の変化に立ち向かう視点
 受けとめる「0000」
 覚悟する「0100」
 求める「0001」
 立ち向かう「0101」
 始める「1000」
 やってみる「1100」
 交わる「1001」
 踏み出す「1101」
 信頼する「0010」
 教わる「0110」
 心開く「0011」
 感謝する「0111」
 結束する「1010」
 協調する「1110」
 対等になる「1011」
 協創する「1111」

あとがき

 日本が世界に誇るべき概念「道」
 年齢と創造性
 しあわせ憲法

参考文献

f:id:soshishablog:20210506102016j:plain

Amazon:予測不能の時代 データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ:矢野和男 著:本

楽天ブックス:予測不能の時代 データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ:矢野和男 著:本

寂しいとき、不安なとき。 人は無意識に自分に触れて自分を癒やしている。『皮膚はいつも あなたを守ってる』山口創著

皮膚はいつも あなたを守ってる

不安とストレスを軽くする「セルフタッチ」の力

山口創 著

◆自分に触れるとなぜ不安な気持ちが和らぐのか

 不安やストレスを感じたとき、自分の顔を触ったり、手を握りしめたり、無意識にセルフタッチをしていることはありませんか? いくつかの研究によれば、人間は疲労が高まったり、ストレスを感じたときに自分の髪の毛や、顔、腕に触れるセルフタッチが増えることが明らかになっています。これは人間だけではありません。セルフタッチはチンパンジーなどの類人猿でもしています。とくに不安や恐怖などのストレス場面で増えることが観察されています。

 ではなぜ自分に触れると不安やストレスが和らぐのでしょうか。こういうメカニズムが考えられています。つまり、皮膚に手による優しい刺激を与えると、外を向いていた意識が、触れられた皮膚の感覚に移動します。それによって「自分はここにいたんだ」という事実を意識し、自分の存在感を確たるものにすることにつながるというのです。結果的に心の礎が安定し、不安な気持ちやストレスが軽減されるように感じるというわけです。

◆不安なときは顔を指先でトントン、疲れているときは全身に熱めのシャワー、落ち込んでいるときはバタフライ・ハグ……。

 試しに本書で紹介している「セルフタッチ」をやってみましょう。顔を両手で覆ってみる、おなかを優しくさすってみる、自分を抱きしめるようなハグをする。どうでしょうか? しばらくセルフタッチを続けていくと気持ちの変化が感じられると思います。本書では、特にオキシトシン(人間の幸福に関わるホルモン)の分泌を増やすために、セルフタッチの他にも、五感を刺激したり、自分の心や身体をいたわる具体的な方法など、幅広い「セルフケア」を紹介していきます。
 読みながら、自分の身体に触れたり、マッサージすることで、癒やし効果がダイレクトに得られる一冊となっています。

 いまだ収束の兆しが見えないコロナ禍において、本書の存在は不安を抱える方にとっての「癒やしの書」となると思われます。ぜひ多くの方に手に取っていただければ幸いです。

(担当/吉田)

 

■目次より 
はじめに 
1章 人はみな「ひとり」から始まる
触れ合いの制限で気づかされたもの 
・揺らぐ心の礎 
・自分の心を知るための二つの手がかり 
・私たちは縛られて生きている 
・ストレスをためない人の特徴 
・外からではなく内側から自分を感じる

出会いの場で起こる原初的なコミュニケーション 
・握手のあと匂いを嗅ぐ人たち
・触覚と親密感 
・皮膚の温かさと優しさの関係 

同調圧力と身体の同調
・人の身体は無意識に同調している
・同調圧力の正体

身体は今の心の状態を教えてくれる
・呼吸が教えてくれる本当の気持ち
・姿勢に「生きる姿勢」が表れる
・あなたを守る皮膚の役割

これからの時代に必要なセルフの力
・セルフコミュニケーションの視点
・スマホを使いすぎるとうつが増える
・SNSのコミュニケーションでは癒やされない

 2章 自分を愛するセルフタッチ
境界としての皮膚の役割
・皮膚は社会的な臓器である
・自分とつながる、自分と隔てる  

ストレスを感じたときにしている身だしなみ行動
・動物のセルフケア
・人のセルフケア

セルフタッチの効能
・人は1時間に23回も自分に触れている
・不安やストレスを鎮める
・認知的なプロセスを助ける
・自分に注意を向ける
・「合掌」もセルフタッチの一種
・セルフタッチと、他者に触れられることの違い

自分に触れると何が起こるのか
・自分に触れることで自分の内側に気づく
・触れることで分泌されるオキシトシン
・触れるとオキシトシン受容体が活性化
・皮膚はストレスを反映する

自分を愛するセルフタッチ
・セルフタッチのやり方
・セルフタッチの効果を高める 

3章 あなたをストレスから守る皮膚の力
葛藤する皮膚と心
皮膚は脳のように刺激に応答している
・皮膚はストレスに応答している
・皮膚はポジティブな刺激にも応答している

身体や皮膚を攻撃する病気
・BFRBという病気
・皮膚むしり症という病気
・自閉症と自傷行為

心を映す皮膚感覚
・好きな人に触れられる効能
・自分を嫌いな人は、痛みから“快感”を感じる
・痛みと快感は紙一重
・無意識の行動を意識化してみる

セルフタッチを用いたストレス解消法
・不安なとき
・イライラするとき
落ち込んでいるとき
・疲れているとき
・心のバランスを取り戻すために

4章 幸せはいつも皮膚から生まれる
オキシトシンは自分で増やせる
五感を刺激する
・嗅覚:ラベンダーはオキシトシンを分泌
・聴覚:ゆったりしたリズムでリラックス
・皮膚感覚:心地よい感触が幸福感を生む
・味覚(食事):絆が深まる
・視覚:目で愛でる効果

自分をいたわり、思いやる
・マインドフルネスとオキシトシン
・セルフコンパッションとは自分への思いやり
・自尊心や甘やかしとは違う
・タッチで伝わる感情
・マインドフルネスのやり方

動物との触れ合いの効果
・犬と人の相互作用とオキシトシン
・普段から動物を飼育している影響
・愛着障害や発達障害の場合
・セラピードッグと自閉症

「人のため」は「自分のため」
・日本人の心の源流
・オキシトシンと利他的行動と健康
・なぜ利他的行動をすると健康になれるのか
・ワーク:慈愛の瞑想

感謝の気持ちが自分を癒やす
・積極的な感謝の姿勢が大切
・感謝の気持ちを持つだけでもリラックス
・気持ちは表情より握手で伝わる
・感謝の高め方1--感謝の瞑想
・感謝の高め方2--感謝の日記
・感謝のリストをつけよう

あとがき

著者紹介

山口創(やまぐち・はじめ)

1967年、静岡県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は健康心理学・身体心理学。桜美林大学教授。臨床発達心理士。タッチングの効果やオキシトシンについて研究している。著書に『手の治癒力』『人は皮膚から癒される』(以上、草思社)、『皮膚感覚の不思議』(講談社ブルーバックス)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)、『からだの無意識の治癒力』(さくら舎)など多数。

f:id:soshishablog:20210422143425j:plain f:id:soshishablog:20210422143441j:plain

 Amazon:皮膚はいつもあなたを守ってる:山口創:本

楽天ブックス: 皮膚はいつもあなたを守ってる - 不安とストレスを軽くする「セルフタッチ」の力 - 山口 創 - 9784794225160 : 本

飛んでくる蝶から見えてくるもの『蝶が来る庭 バタフライガーデンのすすめ』海野和男 著

蝶が来る庭

バタフライガーデンのすすめ

海野和男 著

 本書『蝶が来る庭――バタフライガーデンのすすめ』で著者が繰り返し述べていることは以下の一節に表れている。
「ぼくの事務所がある東京の千代田区でも30種類ほどの蝶がいて、日本全国では240種類ほどの蝶がいます。どの地域でどんな植物を植えるかで、やってくる蝶の種類は異なります。蝶はとてもよく研究されている生きもので、幼虫が食べる植物も種類によって決まっているので、どんな蝶が来るかで、その地域の自然について知ることができます。」(本書11ページより)
 アサギマダラという日本列島を南北に移動することで有名な蝶はヨツバヒヨドリやフジバカマという花に寄ってくる。自生のフジバカマは以前に比べめっきり少なくなったので園芸種を植えるとよいと本書には書いてある(食草にはイケマ)。野生種のフジバカマの衰退とともにアサギマダラも見かけなくなったが、いま各地でフジバカマを育てる蝶の愛好家が増えてアサギマダラも増えているらしい。
 ヒョウモンモドキという絶滅危惧種の蝶がいる。広島県世羅町はこの蝶の好むアザミ類を植えて保護している。アザミというのはとげがあるためか園芸種としてはあまり人気がなく、売っていない場合が多い。ノアザミを種から二年がかりで育てるといい、と著者は述べている。 
 その他、さまざまにバタフライガーデンの作り方を本書は述べている。だが、そうした実用的知識の面白さを通して、花と蝶との関係をこれほど見事にとらえた本は少ないのではないか。「蝶よ花よと育てられ」という言葉があるが、お花畑に蝶が舞いというイメージは古来、最も穏やかな楽園のイメージでもあり、人間が暮らす自然に恵まれた理想郷でもある。蝶と花の関係を見直して、われわれの暮らす環境に思いをいたすのも本書の効用の一つである。

(担当/木谷)

著者紹介

海野和男(うんの・かずお)

1947年東京生まれ。昆虫の魅力にとりつかれ、少年時代は蝶の採集や観察に明け暮れる。東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学び、卒業後、昆虫を中心とする自然写真家の道に進む。著書『昆虫の擬態』(平凡社)は1994年、日本写真協会年度賞受賞。ほかに『昆虫顔面図鑑』(日本編・世界編)(実業之日本社)、『大昆虫記 熱帯雨林編』(データハウス)、『蝶の飛ぶ風景』(平凡社)、『デジタルカメラで昆虫観察』(誠文堂新光社)などがある。また草思社より『すごい虫の見つけかた』『甲虫カタチ観察図鑑』『世界のカマキリ観察図鑑』『世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑』『増補新版 世界で最も美しい蝶は何か』『海野和男の蝶撮影テクニック』。日本自然科学写真協会会長、日本動物行動学会会員など。海野和男写真事務所主宰。1990 年に長野県小諸市にアトリエを構え、バタフライガーデンを作る。公式ウェブサイトに「小諸日記」がある。http://www.goo.ne.jp/green/life/unno/diary/

f:id:soshishablog:20210414135455j:plain f:id:soshishablog:20210414135512j:plain

Amazon: 蝶が来る庭 バタフライガーデンのすすめ:海野和男 著

楽天ブックス: 蝶が来る庭 - バタフライガーデンのすすめ - 海野 和男 - 9784794225092 : 本

蝶が来る庭 | 草思社

名著を紐解き、大思想家の声に触れる喜び! 『難しい本をどう読むか』齋藤孝 著

難しい本をどう読むか

齋藤孝 著

◆長引くコロナ禍の今こそ、名著を紐解くチャンス

「有名だから知っているけど、一度も読んだことがない本」「かつて3行だけ読んで放り出してしまった本」……。
長引くコロナ禍でかつてなく人とのコンタクトが制限されている今だからこそ、難しい本に時間とエネルギーを注ぎ込む大きなチャンスです。
名著を紐解き、最高の知性に触れることは、教養豊かな人生を送る契機になることでしょう。

◆難しい本を読むための共通ルールと14作品の解読法

本書では、齋藤孝氏が古今東西の難解とされる名著を読むための「共通ルール」と、14作品の具体的な解読法を伝授します。
「解説書に頼る」「時代背景・著者の動機を理解する」「著者の『好き・嫌い』に注目する」「肝になる部分だけしっかり読み解く」「キーワードを攻略する」「3色ボールペンを使いながら読む」「著者の主張に耳を傾ける」の7つの共通ルールが順に解説されます。
著者がこれまで、磨き深めてきた読書法の決定版を是非ご高覧ください。

【目次】
[第1部]難しい本の読み方「理論編」
やさしいものばかり読んでいると脳は退化する
今、難しい本を読むことの意味
チャレンジする勇気を持とう
「難しさ」は「意味のない難しさ」と「意味のある難しさ」に分けられる
無意味な「難しさ」に付き合ってはいけない
海外の人文書が難しくなってしまう理由
読めない原因がどこにあるのかを問う
本を読んだらアウトプットする
〈難しい本を読む7つの方法〉
[方法1]解説書に頼る
[方法2]時代背景・著者の動機を理解する
[方法3]著者の「好き・嫌い」に注目する
[方法4]肝になる部分だけしっかり読み解く
[方法5]キーワードを攻略する
[方法6]3色ボールペンを使いながら読む
[方法7]著者の主張に耳を傾ける

[第2部]難しい本の読み方「実践編」
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル『精神現象学』
カール・マルクス『資本論』
フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラ』
フェルディナン・ド・ソシュール『ソシュールの思想』
西田幾多郎『善の研究』
ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』
マルティン・ハイデガー『存在と時間』
メルロー=ポンティ『知覚の現象学』
エマニュエル・レヴィナス『全体性と無限』
ミシェル・フーコー『監獄の誕生 監視と処罰』
ジョン・ロールズ『正義論』
トマ・ピケティ『21世紀の資本』
インド哲学『原典訳 ウパニシャッド』『ウパデーシャ・サーハスリー』

(担当/渡邉)

著者紹介

齋藤孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『宮澤賢治という身体』(世織書房、宮澤賢治賞奨励賞)、『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)、『話すチカラ』(ダイヤモンド社)、『思考中毒になる!』(幻冬舎)など多数。

f:id:soshishablog:20210322143515j:plain f:id:soshishablog:20210322143531j:plain

Amazon:難しい本をどう読むか:齋藤孝 著:本 

楽天ブックス: 難しい本をどう読むか - 齋藤 孝 - 9784794225108 : 本

「あらゆるものが感染する時代」を生きるために『感染の法則 ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで』アダム・クチャルスキー著

感染の法則

ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで

アダム・クチャルスキー 著 日向やよい 訳

収束の兆しが見えないコロナウイルスは、私たちに「感染」する最たるものですが、これ以外にも、リーマンショックなどの金融危機の連鎖から、ネットミームの拡散、さらには肥満、犯罪、自殺まで、私たちは驚くほど様々なものが「感染」する時代を行きています。本書は、これらの感染について、「どのように物事が広がり、収束してゆくのか」を、数理的な視点を用いながらわかりやすく解説しています。
マラリアなどとの闘いの歴史の中で感染症数理モデルが発明されますが、ここでは私達にもなじみの言葉になった「再生産数R」や「集団免疫」「スーパースプレッダー」といった考えがどのように誕生したか、またどの要因がそれらにとって重要なのかに詳しく触れられます。また感染爆発の仕組みに迫る章では、「ネットワークの構造」自体の重要性が述べられます。例えば、「異類結合」型のネットワークはハイリスクの人とローリスクの人の間にリンクが有り、最終的に巨大な感染を引き起こしやすいのですが、リーマンショックがあれだけ大きな連鎖になったのは、銀行同士のつながり方がこの異類結合だったからなのです。これ以外にも、ネットにおいて意図的に「バズらせる」ことが可能かどうかや、「正しい情報に晒され続ければ人の考えは改まるのかどうか」「孤独感はなぜ伝染できるのか」「東日本大震災のときに流れたデマはどうすれば減らすことが出来たのか」といった興味深い問題も取り上げられています。この感染時代に生きるすべての人の「知的なワクチン」となる、これ以上ないほどタイムリーな1冊です。

(担当/吉田)

著者紹介

アダム・クチャルスキー

1986年生まれ、ロンドン在住。ケンブリッジ大学で数学の博士号を取得。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で数学モデリングを教えながら統計学や社会行動の論文を発表する。著書に『文庫 ギャンブルで勝ち続ける科学者たち: 完全無欠の賭け』(草思社)がある。

訳者紹介

日向やよい(ひむかい・やよい)

会津若松市出身。東北大学医学部薬学科卒業。主な訳書に「新型・殺人感染症」(NHK出版)、「死体捜索犬ソロが見た驚くべき世界」(エクスナレッジ)、「RAW DATA(ロー・データ)」(羊土社)などがある。

f:id:soshishablog:20210225100706j:plain f:id:soshishablog:20210225100724j:plain

Amazon: 感染の法則 ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで:アダム・クチャルスキー 著 日向やよい 訳:本

楽天ブックス: 感染の法則 - ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで - アダム・クチャルスキー - 9784794225047 : 本