草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

脱原発の議論を事実に基づいた建設的なものに! 

ドイツの脱原発がよくわかる本 ――日本が見習ってはいけない理由
川口マーン惠美 著

◆ドイツは理想的な脱原発への道を歩んでいる?

 東日本大震災による福島第一原発の事故を期に、全国の原発は、安全性見直しのため、すべて停止しています。現在は再稼働の審査待ちの状態。この原発再稼働に反対する人々は、脱原発の先行モデルとしてドイツを挙げ、「ドイツでうまくいっていることが、なぜ日本でできないのか」と論じます。しかし、本当にドイツの脱原発は、順風満帆に運んでいるのでしょうか? 本書は、ドイツ在住30年以上の著者がドイツの脱原発についてレポートし、ドイツを手本に脱原発を急ぐことに警鐘を鳴らす本です。
 ドイツは、福島原発事故から間もない2011年6月に、「2022年までに国内のすべての原発を停止する」ことを決定しました。目下、その目標に向かって、ドイツはとてつもない努力をし、悪戦苦闘していることは間違いありません。
 ドイツは太陽光や風力による発電を増やす政策をとりました。しかし、それらによる発電割合が増えたため、結果的に電力供給が不安定化、電力会社は何とか安定供給を確保するために、利益が出せなくなっています。それらのせいで、ドイツでは電気料金が非常に高くなっていますが、国民は脱原発のためにがまんしています。風力発電による電気を運ぶための送電網は、計画はあるものの、地元住民の反対でまったく進んでおらず、苦しい交渉を強いられています。

◆ドイツでさえ苦しむ脱原発。いわんや日本をや

 それでもドイツが何とかやっていけているのは、エネルギーに関してドイツが日本よりも、ずっと恵まれた環境にあるからです。ドイツでは17基ある原発のうち9基はまだ稼働しており、現在1基も動いていない日本より、原発依存度は高いのです。また、原発の分の電力を補うために、ドイツ国内で非常に安価に採れる褐炭による発電を増やしていますが、これも日本には真似のできないことです。さらに、電気が足りなくなったり、あまったりしたら、隣国と電気の売買をして帳尻を合わせることができますが、日本にはそんなことはできません。ドイツは恵まれた環境を利して、脱原発への現実的な道を模索する時間を稼いでいると言えるでしょう。
 本書は、必ずしも脱原発に反対する本ではありません。どのようにしたら、現実的な脱原発への道が採れるのかを考えるには、脱原発に果敢に挑んでいるドイツをただもてはやすのではなく、その現状を本当によく見て、いいことも悪いことも学ぶことが大切です。ドイツの脱原発の現状をわかりやすく解説した本書は、今まさに議論を深めるために読むべき本と言えるでしょう。

(担当/久保田)

著者略歴

川口マーン惠美

大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。85年、シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。シュトゥットガルト在住。著書に『ドイツで、日本と東アジアはどう報じられているか?』(祥伝社)、『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』『住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち』(いずれも講談社+α新書)、『証言・フルトヴェングラーかカラヤンか』(新潮社選書)、『ドレスデン逍遥』『ドイツ流、日本流』(いずれも草思社)ほか。

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