草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

戦後日本の歴史認識に変更を迫る卓抜な論考集!『アメリカの対日政策を読み解く』渡辺惣樹著

アメリカの対日政策を読み解く

渡辺惣樹 著

◆日本人はアメリカの行動原理がわかっていない

 米大統領選の候補者選びで共和党トランプ氏の優勢が報じられています。メディアの下馬評にもあがってなかった、まさに予想外の展開です。我が外務省では急遽、氏について情報収集を始めた由。同盟国アメリカの動向が日本の政治・外交に重大な影響を与えることは自明で、あらゆる可能性をシミュレートして然るべき外交のプロが俄かに情報集めに走った気配が窺えて、何やら不安な気持ちになります。しかし顧みれば、ペリー来航により開国して以来、日本はアメリカの政治・外交の転換、その対日政策の変容にそのつど戸惑い、翻弄されてきたと言えます。日米開戦の衝撃は言うまでもなく、戦後も、日本の頭越しの米中接近を危惧する朝海浩一郎(元駐米大使)の〝悪夢〟が、ニクソン政権下で現実のものとなった衝撃は、当時を知る者にとっては圧倒的でした。百六十余年に及ぶ交流の歴史を持ち、大量の情報に接していながら、アメリカという国を、またその行動原理を日本人は今にいたるも十分に理解できていないということでしょう。

◆知られざるドラマから対日政策変容の由来を探る

 本書は、日米近現代史のトピックスを独自の視点で解釈した一連の著作が高く評価されている渡辺氏が、オピニオン誌を中心に発表した論考、インタビュー、自身が翻訳を手がけた著作の訳者あとがき等を集めた評論集です。渡辺氏は初めての著作『日本開国』(二〇〇七年、小社刊)において、ペリー来航の本当の狙いは、中国市場をめぐるイギリスとの通商戦争を戦うためのシーレーンの確保にあったと説き、日本未紹介の米政府資料をもとに、日本開国プロジェクトの立案者を特定しています。この画期的な「開国史」を上梓していらい、渡辺氏は、壮大かつ斬新な「日米開戦史」を書き継ぎ、また、TPPや米露資源戦争などのヴィヴィッドなテーマを取り上げてアメリカ外交の真意を推し量る著作・翻訳書をものしてきました。こうした意欲的な執筆活動から〝スピンオフ〟した本書収録論考の主要テーマはアメリカの対日政策であり、日米関係を画した事件の背後で進行していた知られざるドラマを俎上にのせ、米側資料に依拠しつつ、通説からは決して見えてこない、対日政策変容の由来を探っています。

◆「ルーズベルトの開戦責任」を問う

 論考が扱う内容は明治期の日米関係からヒラリー・クリントンの外交政策まで広範囲に及びますが、そこには日米戦争の本当の開戦原因は何だったのかという渡辺氏の問題意識が貫かれているように思われます。アメリカにとってのフィリピンの重要性、米西海岸で顕著だった人種差別運動、米国世論の八割が第二次大戦参戦に反対していたこと、ルーズベルトの異常な政治的野心、彼とチャーチルの密約、アメリカの過干渉外交の伝統等々、多面的なアプローチによってこの点が追究されています。そして、日米を最大の悲劇に導いた責任の多くはルーズベルトの無定見な外交政策にあり、米国の責任ある立場の人々はこれを認めるようになっているとの渡辺氏の指摘はきわめて重要で、敗戦を機に定着した日本人の歴史認識を一変させるものと言っても過言ではありません。

(担当/A)

著者紹介

渡辺惣樹(わたなべ・そうき)

日米近現代史研究家。1954年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本未紹介の膨大な米英資料を読み込み、開国以来の日米関係を主義・主張を排した合理的な視点をもって解釈した一連の著作が高い評価を受ける。オピニオン誌を中心に、日米の開戦原因、最新のアメリカ政治をテーマとした論考を発表。著書に『日本開国』『日米衝突の根源 1858-1908』『日米衝突の萌芽 1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞)『朝鮮開国と日清戦争』『TPP 知財戦争の始まり』、訳書に『日本 1852』『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』『アメリカはいかにして日本を追い詰めたか』『ルーズベルトの開戦責任』『ルーズベルトの死の秘密』『コールダー・ウォー』『ダレス兄弟』(いずれも草思社刊)。

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