前回は、『鬼谷子』の説く、人を動かす前に必ず行わなければいけない「観察」という作業についてご紹介しました。
今回は、実際に人を動かすために何をするべきか、その術について、ご紹介します。
・人は「陰陽」で動かす
『鬼谷子』の根幹には、「陰」と「陽」という考え方があります。
この「陰陽」という考え方は、『鬼谷子』のあらゆる箇所に様々な形で登場します。
限られたスペースで、それらをすべて説明してしまうと、かえって意味不明になる恐れがあるのでしませんが、人を動かすのに関係する代表的な「陰陽」だけを挙げれば、次のようなものです。
1言葉(陽)⇔言葉以外の要素(陰)
まず、『鬼谷子』の術は言葉で人を動かす術ですが、言葉“だけ”で人を動かす術ではありません。むしろ利用できるものは何でも利用するのが、『鬼谷子』の術の特徴です。
例えば、上司から「明日までに書類を出しなさい」と言われたとします。
この時、部下が従うのはなぜか? これを「陰陽」で考えれば、次の二つの力の兼ね合いであることがわかります。
(陽)「明日までに書類を出しなさい」という言葉の持つ力
(陰)上司という立場の持つ力
『鬼谷子』は、言葉の持つ「陽」の力だけでなく、その裏にある現実の持つ「陰」の力をも利用して、相手を動かす術です。
だからこそ、発言の持つ「陰」の力を最大化するために、自分にとって最も有利な立場を選ぶ技術(忤合の術)なども教えるわけです(ちなみに、自分の立場のコントロールは、自分を安全圏に置くための絶対条件でもあります)。
その時の発言者の立場の強さ、周囲の状況、ちらつかせる利益・不利益などはすべて「陰」の力です。
『鬼谷子』の術を使って人を動かすのならば、こうした要素をちらつかせ、醸しだし、最大限に利用しなければいけません。
2前向きな言葉(陽)⇔後ろ向きな言葉(陰)
相手を動かすためにもう一つ利用すべき「陰陽」が、前向きな言葉という「陽」と後ろ向きな言葉という「陰」です。
ここでいう前向きな言葉と後ろ向きな言葉とは、ざっと挙げれば次のようなものです。
(陽)前向きな言葉……ほめ言葉、楽観的な予測、利益についての話、相手が聞きたい話、明るい話
(陰)後ろ向きな言葉……非難する言葉、悲観的な予測、不利益についての話、相手が聞きたくない話、暗い話
「陽」には相手を動かす作用があり、「陰」には相手を止める作用があります。
したがって、基本的には相手に何かをさせたければ、それについて「陽」の話をすればいいですし、相手のすることを止めたければ、それについて「陰」の話をすればいい。
これが基本になります。
単純な例を挙げれば、相手にキャベツを買わせたければ、キャベツを食べることによる効用(利益)の話をし、買おうとしている相手をほめればいいわけです。当然、買わせたくなければその反対。
ただし、「陰陽」には別の法則もあり、「陰」を言われすぎると「陽」で返したくなり、「陽」を言われすぎると「陰」で返したくなる、というものもあります。
キャベツの例でいえば、相手が内心キャベツを買いたがってるのに、それを隠している場合。こちらがキャベツに否定的なこと(陰)を言い続ければ、相手もたまらずに、思わずキャベツ擁護(陽)を始めるかもしれません。
こうした「陰陽」による押し引きも、『鬼谷子』が人を動かすのに利用する要素です。
・事前の観察で状況と相手の心を見極めておく
こうした「陰陽」を利用して相手を動かすには、前回紹介した情勢への観察(量権)、動かす相手の心の観察(揣情)が大切です。
動かしたい相手が、どのような話題にどのように反応するのか、そのために、利用できる状況にはどのようなものがあるのかを見極めなければ、「陰陽」をどのように使うのかの方針も立たないからです。
つまり、『鬼谷子』の術においては、観察と実行は一体なのです。
以上の技術の詳細についても、拙著『今日ヒラ』をご参照いただければと思います。例によって宣伝になりますが、本当にこのスペースじゃ書ききれないのでスミマセン(笑)。
次回は、動かした後の話をご紹介しようと思います。
『鬼谷子』では人を動かした後に、どのように行動することをすすめているのか? ある意味、他の説得術や人を動かす技術と違うのは、この部分かもしれません。
(筆者:高橋健太郎)
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