【普及版】法隆寺
――世界最古の木造建築
法隆寺が世界の最古の木造建築であることは周知の事実ですが、その価値は古いということにあるのではなく、法隆寺に込められた、古代日本人がもっていた技術や知恵を知ることができることにあるといえます。名門宮大工で法隆寺の大工棟梁だった故・西岡常一氏と、古建築の第一人者故・宮上茂隆氏による正確でわかりやすい文章に、穂積和夫氏の精密なイラストをあわせて法隆寺のすべてを明らかにした名作が、待望のハンディサイズになりました。これまでは大きくて現地へ持ち運ぶことができなかったのが、普及版はコンパクトなので実物を見ながら手元で詳しい解説を見ながら鑑賞することが可能になりました。
また、本書は法隆寺について分かるのみならず、日本建築についての基本的な理解が得られるように内容が充実しています。当時の技術で、どうやってあんなに高い構造物を立てることができたのか、大きく伸びる庇の重さをどのようにそれぞれの部材が支えているのか、内部に施された壁画は何を表そうとしているのか、そういった細部が余すところなく解説されているのです。日本建築史について学びたい建築学生にはもちろんのこと、イラストやアニメーションにおいて、古建築の設定を知りたい時の参考資料としてもこれほどわかりやすいものはありません。日本建築に幅白く興味をお持ちの方に、ぜひお手に取っていただければと思います。
(担当/吉田)
著者紹介
西岡常一(にしおか・つねかず)
1908年奈良県に生まれる。1995年没。西岡家は、鎌倉時代にはじまる法隆寺四大工の一人、多聞棟梁家につながる宮大工の家柄。明治のはじめ祖父常吉氏の代に法隆寺大工棟梁を預かる。常一氏は幼少より祖父常吉氏から宮大工の伝統技術を教え込まれ、1934年に法隆寺棟梁となる。20年間にわたった法隆寺昭和大修理で、古代の工人の技量の深さ、工法の巧みさに驚嘆したという。法隆寺金堂、法輪寺三重塔、薬師寺金堂、薬師寺西塔などの復興の棟梁として手腕をふるった。文化財保存技術者、文化功労者、斑鳩町名誉町民。著書に『木のいのち木のこころ(天)』(草思社)『蘇る薬師寺西塔』(共著、草思社)『木に学べ』(小学館)『法隆寺を支えた木』(共著、日本放送出版協会)『斑鳩の匠・宮大工三代』(共著、徳間書店)ほか。
宮上茂隆(みやかみ・しげたか)
1940年東京に生まれる。1998年没。東京大学工学部建築学科卒業。論文「薬師寺伽藍之研究」で工学博士号を取得。1980年、竹林舎建築研究所を開設。日本建築の歴史研究と復元設計に専念した。歴史研究では古代寺院建築、中世住宅建築、近世城郭建築、数寄屋と茶室など幅広く、建築設計では国泰寺三重塔(富山県)掛川城天守(静岡県)大洲城天守(愛媛県)などがある。主要論文に「豊臣秀吉築造大坂城の復原的研究」「安土城天主の復原とその史料に就いて」主要著書に『大坂城』『模型・薬師寺東塔』『復元模型・安土城』『薬師寺伽藍の研究』(いずれも草思社)などがある。
イラストレーター紹介
穂積和夫(ほづみ・かずお)
1930年東京に生まれる。東北大学工学部建築学科卒業。長沢節氏に師事して絵を学ぶ。松田平田設計事務所をへてイラストレーターに。アイビーファッションや『間違いだらけのクルマ選び』(徳大寺有恒著)のイラストなど、おもにファッションや自動車などの分野で活躍してきたが、現在では本シリーズに代表されるように日本の歴史的な建造物や街並み、歴史風俗などを描くことに意欲的に取り組んでいる。昭和女子大学非常勤講師。著書に『日本の建築と街並みを描く』(彰国社)『大人の男こそ、オシャレが似合う』(草思社)『絵本アイビーボーイ図鑑』(愛育社)『自動車のイラストレーション』(ダヴィッド社)ほか多数。